【完】鵠ノ夜[上]



幼い頃からずっとそばにいてくれた。

ずっとずっとわたしの面倒を見てくれていたのは憩だった。どうして憩がわたしの家で働いてたのとか、そういう詳しいことは聞いてないけど。



『だから御陵出たんだろうが。

……お前も嫌だろ、隠れて付き合ってんの』



「お父様にはとっくに知られてたのよ」



『結局別れたんだからどうもないけどな』



言い切られて、出かかった言葉を思わず飲み込む。

わたしのこと嫌いになっちゃった?なんて、いくらわたしでも面倒な女になるつもりはない。もう既に面倒な女だってことは承知の上だ。



「遅くにごめんなさい。……仕事、がんばって」



憩は御陵の仕事を辞めて、会社を設立して、どうするつもりだったんだろう。

わたしと本気で結婚するつもりなら、最終的には御陵を継ぐことになって、社長の仕事は続けられなかったはず。




『仕事ならもう終わってる。

今やってんのは、和璃の披露宴で流す動画編集だよ。俺にやらすなっての』



「……、五家はみんな彼の美容室に通ってるし、わたしと知り合いだからって理由で、わざわざ彼らのことも披露宴に招待してくれたのよ。

わたしは式にも参加させてもらうけれど、披露宴は規模が大きいらしいわね」



『まあ、一応ああ見えて御曹司だからな』



「そうね」



美容師の仕事をするために親子の縁を切ったどうこう言ってたけど、どうなったのやら。

実家の関係でたくさん人が来るってことはおそらくうまくいってるんだろうし、過去を知っているからって、雛乃ちゃんのことでかき回すつもりもない。



「……雛乃ちゃんとかむちゃんだけね、うまくいったの」



わたしと、憩と、和璃と、雛乃ちゃんと、雛乃ちゃんの旦那さんであるかむちゃん。

四人は同い年で仲が良かったから、昔からたくさん遊んでもらった。……わたしと憩が結婚するって、たぶんあの三人も信じて疑ってなかったはずだ。



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