【完】鵠ノ夜[上]
『和璃が片想いしてたっつう時点で、いろいろ無理があったんだろ。
そもそも、雛乃みたいな女を好きになるあいつらの神経が信じられねえ』
「ふふ……
憩の雛乃ちゃん嫌いはなおらないのね」
『嫌いなんじゃねえよ受け付けねえだけだ』
「同じ意味じゃない」
それを言うなら、憩がわたしを好きになってくれたって方が信じられない。
わたしのことなんか、年が離れていてただ若いだけの女に過ぎないっていうのに。……不思議だ。
わたしが大人になって、お酒を飲めるようになった頃。
その頃なら、また五人で、話せるだろうか。──いまのことを、笑い話に、出来るだろうか。
雛乃ちゃんとかむちゃんは不安一つないまま結婚までいって。わたしが大人になる頃もきっと仲が良いまま。
和璃は片想いしてたけど、今は幸せそうにお嫁さんと生活してるね、って。
憩はわたしと別れちゃったけど、例えば誰か新しい人を見つけてるだとか。
はたまた会社をもっと大きくしているかもしれない、とか。浮かぶ未来はいつだって、現実とは比にならないほどに穏やかであたたかい。
「和璃のお嫁さん……
綺麗な人だから、ウエディングドレスきっと似合うね」
……じゃあ、わたしは?
わたしは一体その時、どうなってるんだろう。きっと御陵の跡継ぎになる相手と結婚してるはず。大学進学の予定だったけど、進学もしてないかもしれない。
みんながいる未来のわたしは、確実に笑っているはずなのに。
同じ空間にいるはずなのに。──自分のことだけを考えると、なぜか目の前が真っ暗に感じる。
『お前は?』
「……うん?」
『家柄にあわせて、白無垢か。
それとも着たいように、ウエディングドレスか』