【完】鵠ノ夜[上]







「へえ……結婚式ね。

俺は幼い頃に行ったぐらいだけど、レイは慣れてるの?」



「色々と顔の広い家だから何度か。

わたしがいない間、お利口に稽古受けててちょうだいね」



「ぼくだけはオフだから、

お買い物ついでに街の方まであそびにいってくるね」



「ええ、気をつけていってらっしゃい」



レイちゃんも、と返されて「小豆がいるから」と答えたら、小豆は前回の誘拐の件ゆえか、わたしからは白々しく目を逸らしたけど。

「お護りしますので」とにっこり答えていた。今日も彼はスーツだが、結婚式の出席者。運転は別の運転手さんに任せることになっている。



「お嬢のその丈気になるわ~……

屈んだらぜったい見える。見えるから屈まないでよ?お嬢。ってか腰ほっそ……」



そして話題の落ち着かない雪深。

わたしも普段ならこんな短い丈のドレスなんか着たくないわよと思いながら、花嫁以上に目立たないよう抑え目なミントグリーンのドレスを見下ろした。




「あ、小豆さん。

お嬢の男除けよろしくお願いします。お嬢が男に声掛けられてると、俺心配過ぎて稽古どころじゃなくなるから」



「……そこだけは俺も同意かな」



「お前らは本当にぶれないな。

柊季だけ時間が早ぇからって先出ていったが、そろそろ俺らも稽古の時間になるぞ」



「うわまじか、やべえ。着替えてこよー」



ばたばたと慌ただしいみんなに、芙夏と小豆と顔を見合わせて思わず笑う。

部屋に引っ込んだ三人は置いておいて、「いってらっしゃぁい」とかわいい声で芙夏に見送られると、別邸を出て待機していた車に乗り込んだ。



「雛乃ちゃんがね。

ブーケはぜったい雨麗にあげるから!って」



ちゃんと取ってね!と言われたことを思い出して、口元が緩む。

雛乃ちゃんがどこに上げるかにもよるだろうし、きっとわたしよりも年上の知り合いもいるだろうに、あえてわたしにくれるらしい。



< 212 / 271 >

この作品をシェア

pagetop