【完】鵠ノ夜[上]
扉が開いて、入ってきたのは雛乃ちゃんの旦那様、かむちゃん。
「タキシード似合うね」って褒めてから、雛乃ちゃんよりも先に言ってしまったことに申し訳ないと思っていたら。ふと雛乃ちゃんが固まっていることに気づく。
「……、かっこいい」
どうやら完全に見とれていたらしい。
雛乃ちゃんの言葉に苦笑した彼は、「お前も似合ってるよ」と返す。幸せそうで何よりだ。
「ドレス選んでるときね、雨麗ならきっとこれ似合うだろうな〜っていうのいっぱいあったよ。
ウエディングドレス着たいって、前に言ってたよね?」
「ふふ、うん。
……でも今は、五家の面倒見てるのに忙しいから」
「あ〜、そっかそっか。いい男いるの?」
……何も、かむちゃんの前でそんなこと聞かなくても。
もちろん雛乃ちゃんがかむちゃん大好きなことは把握済みだから誰も気にしていないし、わたしも「みんないい男」なんておどけてみせるけど。
「……櫁が一時期、うまくいってないって心配してただろ。あれはもう大丈夫なのか?」
「ああ、はい。大丈夫です。
……すっかり仲良くなられましたから」
わいわいといつもと変わらず話していたら、あっという間に式のはじまる時間になる。
小豆と和璃と憩と、四人で控え室を出てチャペルに足を踏み入れた。こういうのもなんだが、わたしにとって一番仲良しな女の子は雛乃ちゃんで。
住む環境も年齢も違うけれど、心から幸せになって欲しいと思える人だから。
永遠を誓うふたりが、とてもまばゆく見えた。
「よかったですね、本当に頂けて」
「うん……
本当はあんまり乗り気じゃなかったんだけど、実際にこうやって綺麗なお花をもらうと、嬉しくなっちゃった」
帰路につく、車の中で。
胸に抱いたブーケに笑みを浮かべるわたしに、小豆も優しく笑ってくれる。