【完】鵠ノ夜[上]

◆ どうしてなんて、そんなもの








「おはよう、レイちゃん。

……いまからお風呂行くのー?」



「早起きね、芙夏。おはよう。

ええ、昨日帰宅するのが遅かったから、」



午前6時前。

組員さんとこの間話していたら、どうやら朝のうちに軽く外へ走りに行っているらしい。ぼくも行きたい、とお願いして、一緒に行くことになった。



そのために本邸に来てみたら、起きてから間もなさそうなレイちゃんが、廊下を歩いてきた。

ルームウェアらしい薄手のワンピースに身を通して着替えを腕に抱えているレイちゃんにランニングのことを伝えると、気をつけて行ってらっしゃいと微笑んでくれる。



「いってきまーす。

あっ、また後で昨日のお話聞かせてねー」



ひらひらと、手を振って見送ってくれる彼女。

組員さんがいるであろう部屋に向かいながら、ふと、疑問に思ったのは彼女のいた場所で。



……レイちゃんの部屋からお風呂まで、あの廊下って通らないよね?

本邸には広い露天風呂とか銭湯みたいになってる大浴場とか、いくつかお風呂があるけど、どれもあの廊下を通る必要はなかったはず。




あの廊下の先には、小豆さんの部屋がある。

用事があって小豆さんのところにいたかも、しれないけど。……なぜかレイちゃんから、小豆さんと同じ香水の匂いがした。



いつも一緒だから、匂いが移ってもおかしくはないんだけど。

なんていうか、ふんわり香ってきたとか、そういうのじゃなくて。小豆さんと同じ香水をふったのかと思うくらいに、はっきり匂いがした。



「起きられねーと思ってたけどほんとに来たのか」



「ぼくのこと、なんだと思ってるのー!

寝起きの悪いシュウくんとゆきちゃんとこいちゃんよりは早起きだもんーっ!」



「はいはい。んじゃあ行くぞ」



御陵の組員さんたちは、普段とてもアットホームでフレンドリーだ。

ぼくのことを完全にいじられキャラだと思ってるのかそうやっていじってきたりするけど、可愛がってもらってると思う。



五家の中で、唯一ひとりだけ年下だけど。

年下だからこそ、気にかけてもらえる部分も多い。だから年下が嫌だって思ったこともないし、五家のみんなだってぼくに優しい。



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