【完】鵠ノ夜[上]



「あ、レイちゃん。

あのね……今日の朝、小豆さんと同じ香水付けてた?」



「……いいえ?

小豆とは、朝部屋で少し話をしていただけよ」



「そっか。いってらっしゃい。

三人とも寝起き悪いから、がんばってー」



不思議そうな顔をして、レイちゃんが部屋を出ていく。

小豆さんと、部屋で話をしただけ。……なのにあんなに香水の匂いが移るなんて、多分ありえないと思う。



「険しい顔して、どうした?」



「んー……今日ね、ぼくランニング行ったでしょ?

あの時本邸でお風呂に行く前のレイちゃんとばったり会ったんだけど、」



かくかくしかじか、ざっくりと内容を話す。

そうすればはりーちゃんは表情を少しも変えることなく、じっとぼくを見て。




「……小豆さんの部屋にいたんじゃないか?」



「だよねー。きっとそうだよ、ねー?」



「ああ。でも、わざわざ話しただけって誤魔化したのが逆に怪しく聞こえるけどな。

……とりあえずあいつらには黙っておけよ。ややこしい事になる可能性が高い」



「……随分と楽しそうなお話をされてますね。

おはようございます、天祥様、茲葉様」



襖の向こうから、小豆さんが顔を覗かせた。

こそこそと話していたことを、どうやら聞かれていたらしく。純粋な笑顔を向けられて、思わず表情が引き攣ってしまった。



「昨夜、雨麗様はお疲れのようでしたから。

車中で眠ってしまわれたのですが、私の服を掴んで離して頂けませんでしたので。仕方なく私の部屋で一晩お眠りいただいただけですよ」



「え、あ、なるほど。

小豆さんの部屋で寝てたから、レイちゃんに香水の匂いがうつったんだねー。……ちょっと疑ってごめんなさい」



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