【完】鵠ノ夜[上]



悪気はなかったんだけど。

レイちゃんと小豆さんって仲が良いし、もしかしてそういうこともあったりするのかなーって、ちょっと疑ってしまった。ほんとにちょっとだけね。



「ふふ、気にしないでください。

誤解を招くような状況を作ったのは私ですから」



いい人過ぎる……!

優しすぎるよ小豆さん……!と、それに感心していたぼくの隣で。普段はそう多く口を挟まないはずのはりーちゃんが、声を発した。



「……あらかじめ言い訳を考えておいた感が凄いな」



「え、はりーちゃん……?」



「昨日一時頃に、雨麗に連絡を入れたら返事が返ってきた。

……つまり、一度寝ていたとしても返事できるほどしっかり起きていた雨麗が。普段真面目なのに、そのまま誰かの部屋に居座ったりしないだろ」



もっともらしく聞こえるはりーちゃんの言葉。

ただ単にレイちゃんは夜中に目を覚ましたあと、部屋まで向かう気力はなかったけど、返事をしただけかもしれないし。




きっと違うよ、って、言いたいのに。

小豆さんがすぐさま反論しないから、余計に不安を煽る。



「……何も朝からそんな話で不快な空気を作らなくてもいいじゃない、はとり。

わたしだってズボラな時くらいあるわよ」



そんな空気を断ち切ったのは、やっぱりレイちゃんで。

無事に三人を起こして戻ってきたらしい彼女は、自分の席につくと、「それとも、」とどこか挑発的に肩肘をついてはりーちゃんを見据えた。



「あなたが予想している通りだったとして……

はとりに不都合なことは何も無いと思うけど?」



「……ああ、そうだな」



「ふふ……でしょう?」



揺らぐことのない女王様。

片肘をついたままの手に顎を乗せたレイちゃんは、「でもまあ、」と視線を一度横に流してから、小豆さんを見て、はりーちゃんへと戻す。


< 222 / 271 >

この作品をシェア

pagetop