【完】鵠ノ夜[上]
悪気はなかったんだけど。
レイちゃんと小豆さんって仲が良いし、もしかしてそういうこともあったりするのかなーって、ちょっと疑ってしまった。ほんとにちょっとだけね。
「ふふ、気にしないでください。
誤解を招くような状況を作ったのは私ですから」
いい人過ぎる……!
優しすぎるよ小豆さん……!と、それに感心していたぼくの隣で。普段はそう多く口を挟まないはずのはりーちゃんが、声を発した。
「……あらかじめ言い訳を考えておいた感が凄いな」
「え、はりーちゃん……?」
「昨日一時頃に、雨麗に連絡を入れたら返事が返ってきた。
……つまり、一度寝ていたとしても返事できるほどしっかり起きていた雨麗が。普段真面目なのに、そのまま誰かの部屋に居座ったりしないだろ」
もっともらしく聞こえるはりーちゃんの言葉。
ただ単にレイちゃんは夜中に目を覚ましたあと、部屋まで向かう気力はなかったけど、返事をしただけかもしれないし。
きっと違うよ、って、言いたいのに。
小豆さんがすぐさま反論しないから、余計に不安を煽る。
「……何も朝からそんな話で不快な空気を作らなくてもいいじゃない、はとり。
わたしだってズボラな時くらいあるわよ」
そんな空気を断ち切ったのは、やっぱりレイちゃんで。
無事に三人を起こして戻ってきたらしい彼女は、自分の席につくと、「それとも、」とどこか挑発的に肩肘をついてはりーちゃんを見据えた。
「あなたが予想している通りだったとして……
はとりに不都合なことは何も無いと思うけど?」
「……ああ、そうだな」
「ふふ……でしょう?」
揺らぐことのない女王様。
片肘をついたままの手に顎を乗せたレイちゃんは、「でもまあ、」と視線を一度横に流してから、小豆さんを見て、はりーちゃんへと戻す。