【完】鵠ノ夜[上]
「……はとりの読みは間違ってないけど」
「え?」
目を見張る。間違ってないってことは、つまりそういうことで。
状況を掴めていないはずの三人も、なんとなく察したように、レイちゃんをなんとも言えない表情で見つめた。
「昨日は偶然そういう気分で、相手は偶然小豆だっただけよ。
……ごめんなさいね、誤魔化そうとしてくれたのに話しちゃって」
「……いえ」
「そういう訳だから、朝までわたしは小豆の腕の中で眠ってた。香水もその時に移ったんでしょう。
……知りたかったのかはさておき、これが事実よ。聞いて満足した?」
空気が悪いのは当たり前。
ゆきちゃんもこいちゃんも、レイちゃんのことが好きで。きっと、シュウくんもで。……好きな女の子からそんな話を聞くなんて、嫌に決まってる。
「……小豆。
ここにいても仕方ないから仕事してらっしゃい」
さり気なくそうやって小豆さんを庇うレイちゃんのことも、たぶん良く思ってないはず。
彼が部屋を出ていった後、益々気まずい雰囲気になって、下唇を噛んだ。……こんなはずじゃ、無かったのに。
「なんか……ごめんなさい。
ぼくが、余計なこと言っちゃったから」
食べましょうかと朝食を彼女が勧めてくれたけど、静かすぎて食べづらい。
どうしようもなくて口を開いたぼくに、みんな「芙夏は悪くない」と言ってくれるけど。余計なことを言わなかったら、誰もこんな気持ちにならなかった。
「いいのよ、芙夏。
そうやって些細な疑問を抱くことは間違ってないもの。……茲葉の若として、成長してる証拠じゃない」
「でも、」
「そもそもこの空気がおかしいと思わない?
あなたたちは護衛で、わたしはその主人。もちろんあなたたちを道具とも駒とも思ったことはないけれど……主人の交遊に口出し出来る立場ではないでしょう?」