【完】鵠ノ夜[上]
突き放されるみたいな、言い方。
たぶん怒ってるんだってわかった。私情を挟みすぎてるぼくたちに釘をさしてるだけだって。これ以上余計な感情を持ち込まないための注意なんだって、わかるけど。
「そんな言い方しなくても良くない?」
「そうやってあなたが意見するのだって、わたしのことを好いているからわたしが小豆とそういう関係に至ったことに腹を立てているだけでしょう?
……それとも。告白の返事を返してないまま小豆とそうなったことに怒ってる?」
こいちゃんが何か言おうとして、やめた。
全員が引っ掛かったであろう言葉。"告白?"と、その視線を感じたせいか、こいちゃんはそれ以上言葉を紡ぐ気配もない。
「……あなたたちが私情を挟むなら、わたしも私情を挟ませてもらうわ。
立場上わたしはあなた達のことをいくらでも庇ってあげるけれど、過ごしてきた年数が違うんだもの。小豆のことを優先するのは当たり前よ」
「レイちゃん……」
「……ごめんなさいね。
何年もわたしのことを好いてくれていたのに、立場上一度も口には出さなかった小豆のことを放っておけなくて」
小豆さんはいつだってレイちゃんに優しくて。
レイちゃんのことを心底大事にしてるのはわかってた。それが主人としてのものなのか恋愛感情なのかは、よく分からなくて。……でも。
今、ようやくわかった。
恋愛感情を封じ込める代わりに、主人としてしか愛せなかったのだと。そうすることでしか、無償の愛を捧げられなかった。その結果だった。
「……軽蔑するならそれでも構わないわよ。
誰かに嫌われたくらいで御陵を潰すような甘ったれたことはしないから、好きにして」
彼女が黙り込んで、沈黙が続く。そのまま数分黙々と食事をしたレイちゃんは、「ごちそうさま」と早々に席を立った。
ノートパソコンを手に襖を開けた彼女は、後ろ手で途中まで閉めかけて、くるりと振り返る。──そして。
「雪深、胡粋」
「………」
「悪いけれど、あなた達の気持ちに応えてられるほどわたしは暇じゃない。
……ここ暫く、真剣に悩んだ結果よ。期待しても何も無いと思ってちょうだい」