【完】鵠ノ夜[上]
「あ、小豆さん、どうしよう~っ。
明日みんなで出掛ける約束してたのに、仲直りどころか険悪になっちゃってる……」
喧嘩したのが月曜日、今日はもう土曜日。
明日の日曜日は夏休みの旅行に向けてはじめて六人で買い物に行こうと約束していたのに、まだ誰も仲直りしていない。
レイちゃんはぼくたちと距離を置くように、前みたいに食事の部屋を変えてしまったし。
別邸の中は、少し前まで夜中になってもリビングから声が聞こえたり、みんなで話したりしていたのに、すっかりばらばらになってしまった。
「……めずらしく、雨麗様が駄々をこねられてますからね」
レイちゃんがお稽古だという時間を見計らって小豆さんのお手伝いをしながら話をするけど、小豆さんも困っている様子だ。
……今回のことは、小豆さんも無関係じゃないもんね。
「明日のお約束も、行かないと仰ってましたし。
……少し前まではとても楽しみにされていたのに」
芙夏は悪くないよ、って、みんな言ってくれたけど。
やっぱり、ぼくのせいだ。ぼくが些細な疑問を誰にも言わずに黙っていたら、そもそも気づかなかったら、きっとこんなことにはならなかったのに。
「あ、あの。小豆さん……
レイちゃんの手帳って、いま部屋にありますか?」
「どうでしょう。
肌身離さずお持ちですから、稽古に持参されているかもしれませんね」
「んんん……
どうにかして、確認できないかな……」
ぼくたちがここに来た日から。欠かさず書かれていた、ぼくたちについてのこと。
……もしかしたら今も、という期待がある。それを察したように、小豆さんはレイちゃんの部屋への立ち入りを許可してくれた。
「あ、」
あった、と。
一人訪れた部屋の中。彼女の机の上にあるそれに、「レイちゃんごめんね」と小さく謝ってから、ページを捲る。
ぱらぱらと捲る音が、期待と不安のどちらとも取れる鼓動をうるさくする。
めくっていった、その先。彼女が結婚式に参加した日まではやっぱり欠かすことなく書かれていた。──でも。喧嘩した日からの書き込みは、たったの一度もない。