【完】鵠ノ夜[上]
急に安心したのか、じわじわ涙が滲んでくる。
ぽろぽろとこぼれ落ちるそれが服を濡らすけど、そんなことどうでもよかった。大丈夫だよって、言って欲しかった。
「……歳も一個下で、不安なことだらけだったろうに。
芙夏が頑張ったから、俺らは一回打ち解けたんだろ?なら、んな心配しなくても大丈夫だよ」
「ゆきちゃん、」
「つーか、むしろ。
あいつは……ばらばらにならないってわかってるから、はとりにもああやって文句言ってんじゃねえの」
「え……」
「はとりが、あんな程度のことで怒んねえのなんて分かりきってることじゃねえの?
お嬢に冷たくされて落ち込んで拗ねて八つ当たりしてんだよ~。まったく、問題児すぎて呆れるわ」
言われてみればそうだ。平和主義なはずのこいちゃんが、ああやって文句を言うのはめずらしい。
最近は当たり前になっていたから気づかなかったけど、それはこいちゃんがぼくたちと打ち解けてからたくさん本音を言ってくれるようになったからで。
「ばらばらになりたくねえのは、たぶんあいつもおんなじなんじゃねえ?
……ほら、泣いてないで飯食わねーと次稽古だろ?」
「あ、うん……」
「いつも笑顔の芙夏が泣いてたってなったら、
それこそあいつら心配で大騒ぎするぞ~」
くすくす笑ってるゆきちゃん。
完全に今のは嫌味なんだろうけど、元気づけようとしてくれたってことはすごく伝わってきた。ありがとうとお礼を言って、お昼ご飯を再開する。……けど。
「……でも、レイちゃんは怒ってるよね?」
ギクッとしたような顔をするゆきちゃん。
ぼくたちが"ばらばらにならない"のは一安心だけど、そこがまだ完結してない。レイちゃん怒ってるよね?と再度確認すると、わざとらしく彼は咳払いを一つ。
「それは……まあ……
俺らが謝りにいくまで怒ってるだろうな~」