【完】鵠ノ夜[上]



……やっぱり。

レイちゃんの場合あっさり許してくれるか、もはや許してくれないかのどっちかだろうけど、今回はレイちゃんも駄々をこねてるって小豆さんは言ってたし。



「こっそり手帳も見せてもらったんだけどね……

喧嘩した日から、一個もぼくたちのこと書いてなくて」



「まじかよ~相当怒ってんじゃねえの。

とにかく夕飯の時に話せば何とかなる、か?」



「うん、そうだね」



……泣いたらちょっとだけスッキリした。

ご飯を食べてから、稽古まで少し時間があるらしいゆきちゃんにもう一度お礼を言って、先に部屋を出る。



「お嬢に来客?

アポイントメントを取ってないなら断るしかないだろ。小豆さんに直接断ってもらった方が早い」



廊下で飛び交う声の中に、よく「お嬢」の言葉を聞く。

それだけレイちゃんはみんなにとって大切な存在で。みんなのためにたくさんお仕事してて、だからちょっと、疲れちゃっただけなんだと思う。魔が差しただけ。




稽古部屋についても、まだ先生は来ていなかった。

はりーちゃんがさっきまでいたみたいだから、たぶん先生もちょっとだけ休憩してていないんだと思う。暇潰し程度に、開け放たれたままの窓から外を見下ろすと。



「あ、」



レイちゃんと、こいちゃんだ。

本邸の形状は複雑になっているけど、どうやらこの部屋からは縁側がちょうど見えるらしい。



……じゃなくて。

ぼくの目がおかしくなかったら、縁側で腰掛けているレイちゃんの膝の上に、こいちゃんが頭を乗せて寝転がってる……ように見えるんだけど。



「………」



当然向こうの声は、ここまで聞こえてこない。

だけどそのまま何かを話していたふたりのところにやってきたのは組員さんで、レイちゃんが何か言ってから、縁側を離れて奥に消えた。



……え? あれ、もしかして仲直りしたの?



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