【完】鵠ノ夜[上]
「芙夏?」
どうしたの?と。
こいちゃんが聞いてきて、「なんでもないよー」と首を横に振る。うれしいんだから、こういうときこそ笑顔でいようと思う。みんなに、変な心配はかけたくない。
「──失礼致します」
「……小豆さん」
さっと開いた襖。
そうだ、ぼくたちが全員揃う時間を聞いてたから、夕飯のときかなって答えたんだった。全員に用事かな、と小豆さんをじっと見ていれば。
「皆様。
先日は不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
深々と、頭を下げた彼。
それを見て、誰も小豆さんを責めようなんて思わない。小豆さんのレイちゃんに対する忠誠心は、そもそもぼくらが一番見習うべきものだ。
「恐らく雨麗様からお聞きになっているとは思いますが、私にとって雨麗様は特別な方です。
……いえ、幼い頃から"俺"にとって特別な方」
その言い方はずるいよ、小豆さん。
そう言われたら、どれだけレイちゃんを好きなこいちゃんもゆきちゃんも、想いの深さに勝てなくなってしまう。
だけど、これが小豆さんの本音。
「あの日仰られていたように、偶然相手が俺だっただけのことで、そこに雨麗様の個人的な感情はありません。
……ですがきっかけは、雨麗様の個人的な感情です」
「個人的な感情?」
「……はい。おそらく怒られますので言えませんが、何も雨麗様は考えナシに一方的な意見を与える方ではありません。
ですから、未完成なパズルのままですが、わかって頂けると有難いです」
「……安心してください、小豆さん。
俺ら、レイのこと嫌いになんてならないですから」