【完】鵠ノ夜[上]



「芙夏?」



どうしたの?と。

こいちゃんが聞いてきて、「なんでもないよー」と首を横に振る。うれしいんだから、こういうときこそ笑顔でいようと思う。みんなに、変な心配はかけたくない。



「──失礼致します」



「……小豆さん」



さっと開いた襖。

そうだ、ぼくたちが全員揃う時間を聞いてたから、夕飯のときかなって答えたんだった。全員に用事かな、と小豆さんをじっと見ていれば。



「皆様。

先日は不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」



深々と、頭を下げた彼。

それを見て、誰も小豆さんを責めようなんて思わない。小豆さんのレイちゃんに対する忠誠心は、そもそもぼくらが一番見習うべきものだ。




「恐らく雨麗様からお聞きになっているとは思いますが、私にとって雨麗様は特別な方です。

……いえ、幼い頃から"俺"にとって特別な方」



その言い方はずるいよ、小豆さん。

そう言われたら、どれだけレイちゃんを好きなこいちゃんもゆきちゃんも、想いの深さに勝てなくなってしまう。



だけど、これが小豆さんの本音。



「あの日仰られていたように、偶然相手が俺だっただけのことで、そこに雨麗様の個人的な感情はありません。

……ですがきっかけは、雨麗様の個人的な感情です」



「個人的な感情?」



「……はい。おそらく怒られますので言えませんが、何も雨麗様は考えナシに一方的な意見を与える方ではありません。

ですから、未完成なパズルのままですが、わかって頂けると有難いです」



「……安心してください、小豆さん。

俺ら、レイのこと嫌いになんてならないですから」



< 234 / 271 >

この作品をシェア

pagetop