【完】鵠ノ夜[上]
「胡散臭い男の相手ほど憂鬱なものってない」
なぜか。……なぜ、か。
別邸のリビングにいるレイちゃん。ローテーブルに置かれているのは大量のお菓子と、チューハイのロング缶が三つ。
ちなみに既に一つは空だ。
「冗談じゃない……
アポ取りもせずに来るんじゃないわよ」
「お嬢……
さすがにお酒は飲まないって言ってなかったっけ」
「普段はね。
ただでさえあなたたちと数日まともに話せてなくてストレス溜まってるのに余計なのが来たせいで、素面でやってらんないわよー」
強引にゆきちゃんに席を奪われたせいで、今レイちゃんの隣にいるのはぼくの席に座っているゆきちゃん。
一応レイちゃんも未成年であるから、ゆきちゃんがお酒の缶を取り上げようとしているけど、彼女が断固拒否してる状態だ。
「っていうかみんな気にしすぎなのよ。
たかが小豆と一夜過ごしたぐらいでどうこう言われても、」
「レイちゃん酔ってるでしょー」
お願いだからそのネタはもう掘り返さないでほしい。
せっかく解決したんだからそれ以上何も言わないで、と強引に言葉を遮る。酔ってない、と首を横に振った彼女は、缶に口をつけて呷った。
「雪深。……キスしていい?」
「は!? え、お嬢近くない……?
っていうか別にキスぐらいは全然いいけど、俺見られて興奮するような趣味はないよ?」
「先に拒めよ」
すぐさま飛んでくるこいちゃんの毒づきにぺろっと舌を出して笑ってるゆきちゃん。
でもなんでレイちゃんの腰に手を添えてるのかな。とりあえず受け入れようとしないで拒もうよ。