【完】鵠ノ夜[上]
紐が解かれてゆるむ感覚に、言われた通り胸元を押さえておく。
ホックタイプだったら自分で引っ掛けるのは難しかっただろうけど、結ぶだけだからそう難しくない。塗ってもらって胸元を押さえたまま起き上がり、紐を結んでもらうと手を離す。
「……雪深、胡粋。
あなた達リアクションがあからさまね」
「だって、なんか、そんな気はしてたけど……
平然とビキニ着てんのはずるいわ……ちょっとぐらい恥ずかしがってくれてもいいじゃねえの」
「雨麗ちゃんいつもビキニだよね」
「そうね。いつも憩が買ってくれてたんだけど、今年はどうしようかなって思ってたら……
今年も新しいの買ってくれたみたいで、憩からプレゼントだって櫁に渡されたのよ」
「水着って毎年買わなくても着れんのにな」
「そうなのよね。ありがたく着てるけど」
だから今年のも憩が送ってくれたものだ。
黒のビキニで、左の肩紐のところにお花がついていて。下は白いパレオ付きの、なんともオシャレなビキニ。いつもオシャレだから任せ切りにしてたけれど、これって彼は通販で買ってるんだろうか。
まさかあの憩が、店に買いに行ってるわけじゃないだろうし。
あとで雛乃ちゃんに写真撮ってもらって、憩に送ろう。
「っていうか……これ。綺麗だね」
いつの間にかすぐそばに立っていた雪深が、すっとわたしの腰のあたりを撫でる。
一瞬セクハラしてきたのかと思ったけれど、そこにあるものの存在を思い出して「ああ、」と納得した。
「うん。……わたしも気に入ってるの」
真っ赤な牡丹で羽を休める青い蝶。
俗に言う刺青。わたしが一度自殺未遂を行った件の後に入れたもので。一般的には未成年だと入れてくれなかったりするみたいだけど、そこはまあ、御陵の裏ルートを使ってのこと。
手のひらサイズほどだけど、カラフルなだけに目立つ。
雪深が「俺も入れようかな」と呟いた。わたしの両親は髪を染めるのもピアスホールをあけるのも自由にしろという人だから、これについても何か言われたことは無い。