【完】鵠ノ夜[上]
確か、お父様も刺青を入れていたような気がする。
一緒の家に住んでいても毎日言葉を交わすわけではないから、幼い頃の記憶の一つに過ぎないけれど。
夏休みの課題も仕事も落ち着いてきたから、近いうちにお母様のところに顔を出そうと思う。
お父様に場所を聞いたらそう遠くはなかったし。
「お嬢ー! お待たせしましたー!」
「……ふふ。来たみたいね」
わたしのそばからなかなか離れようとしないふたりに「芙夏たちと遊んでらっしゃい」と促すけれど、全然動こうとしない。
面倒になって「この子達連れてって」と和璃に頼めば快く引き受けてくれたから、ようやく組員たちの元へ足を向ける。
「見てくださいお嬢、和牛ですよ……!」
「……ねえ、櫁。
あなた今年の予算ちゃんと計算したのよね?」
和牛なんて買って大丈夫……?
参加費集めてるはずだけど足りなくなって経費で落とさないでよ……?
「大丈夫ですよ、ほんの一部ですし。
ちなみに和牛は雨麗様専用で買ったらしいです」
「……え、わたしあんなに食べれないわよ」
「ふふ、五家の皆様にお裾分けなさったらどうですか?
皆様中高生ですので、食べ盛りですし」
……うん、確かに食べ盛りだ。
日によっては食事の量も調整してもらえるのだけれど、そもそもみんなの食事はわたしの二倍くらいある気がする。
まあみんな運動してるからそれなりに食べても大丈夫だろうし。
「あの子たちがお腹空かせてるからさっさと始めましょう」と声を掛けると、何かしら手伝う予定だったわたしは雛乃ちゃんに拉致された。
かむちゃんと櫁に助けを求めたら、「遊んでこい」らしく。
そのまま雛乃ちゃんに海まで引っ張られていくわたし。