【完】鵠ノ夜[上]
好きになるのも付き合うのも、それこそキスもはじめてはぜんぶ、憩で。
過去に別れた経験があったらよかったけど、残念ながら別れるのもはじめてで。……どうしたらいいのか、全然、わからない。
「というか、洗脳って……?」
「憩、雨麗が自分を好きになるように色々手を使ってたから。
ああもちろん、怖がるような事じゃなくて。……それぐらい憩は、雨麗のことを昔から大事に思ってたってこと」
「……うん」
「こんなこと言うのあれだけどねー。
……憩選んどけば、確実に幸せになれるよ」
「……好きかどうかも曖昧なのに、」
好きでもない相手だったとしても。
結婚させられるというなら、わたしは御陵のために恋愛結婚は諦める。だけどそうでないのなら、好きかどうか曖昧な相手と簡単に結婚できない。
「でもそんなこと言ってたら、しあわせ逃すよ?」
「………」
「恋してる時の感覚、まだ忘れてないでしょ?」
世界が色づいたように、きらきらして見えて。
会っている時は幸せなのに。会えない時は苦しくて、会いたくてたまらなくなって。向こうも同じ気持ちでいてくれたらいいのに。
「わたしは……憩のこと、好きじゃないと思う」
依存しすぎたから。
憩がいないと生きていけないんだと、ずっと思ってた。当たり前のようにそばにいてくれたから。──だけど、離れたきっかけは、はじめから気づいていた。
憩が、御陵から出ていって、会社の社長になって。
その時、知ってしまった。──憩がいなくたって、わたしは御陵の跡継ぎとして、生きていけるのだと。