【完】鵠ノ夜[上]



「でも憩のことで櫁を巻き込んだんでしょ?」



「それは、ただ……さみしかった、だけなの。

憩と別れてひさしぶりに会って、使用人としてそばにいてくれるのは櫁で、わたしが知ってる憩の場所がどんどんなくなって、離れていって、」



このまま関係が終わってしまったら、と。

そう思うだけでさみしかった。別れたくせに離れないでほしいなんて、わがままでしかないけど。



「わたし……

少しは大人になれたつもりでいたけど、」



自ら命を絶とうとしたあの時と、微塵も変わってない。

子どもじみて迷惑をかけてばかりで、五家のみんなと仲良くなって喧嘩してから、さらに自分の子ども加減に気づいた。



「雨麗、」



わたしはきっと、ひとりじゃ生きていけない。

五家のみんなが来てくれてから、憩と別れて。感情に揺さぶられて櫁を頼って、五家に何かあったらまた櫁に甘えてしまう。




そうやって何度だって、誰かに依存して。

跡継ぎとして独り立ちしたかったのに。……わたしひとりじゃ、何にもできないままだ。



「レイちゃんー!」



沈んだ気持ちと反した、明るい芙夏の声がする。

顔を上げればさっきまで海に入っていた五人が砂浜に上がっていて、「そろそろ食材焼けるってー」とわたしたちを呼んでいた。



「行こう、雛乃ちゃん」



浮き輪を外して片手に抱くと、雛乃ちゃんに手を差し伸べる。

それをぎゅっとつないでくれた雛乃ちゃん。わたしには雛乃ちゃんくらいしか、仲良しの女の子はいないから。



「わたしも和牛一緒に食べていい?」



にこやかに問いかけてくる雛乃ちゃんに、笑って「うん」と返事した。

せめて今だけは。五家のみんなの前でだけは、笑っていたい。



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