【完】鵠ノ夜[上]
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「美味しー。
レイちゃんほんとにそれだけでいいの?」
「そうだよレイ、せっかくレイのために買ってきてくれたんでしょ?和牛」
「……結構食べたから大丈夫よ。
わたしのことは気にしなくていいからしっかり食べてちょうだい」
「むー。全然食べてないじゃんー。
レイちゃんしっかり食べないと倒れちゃうよー?」
「食べてる、って、ちょっと……
ナチュラルにお皿に乗せないで、柊季」
「普段から少食なんだからこういう時ぐらいちゃんと食っとけ。マジで倒れんぞ」
……大丈夫なのに。
強引に乗せられたお肉を返すわけにもいかなくて、黙って食べたら「食えんじゃねーか」と言われた。無理して食べてるのよ。
「普段は雨麗が保護者なのに、今日は完全に逆転してるな」
「はとり、傍観してなくていいから助けて」
「……もっと食っといた方がいいと思うぞ」
違う。そうじゃなくて、わたしのことを助けてほしかったのに。もういい、とひとまずお皿に乗っている残りの食材を平らげる。
みんなが各々楽しんでるのを横目に、「ちょっと散歩してきてもいい?」と席を立った。
「えー、俺も行きたい」
「雪深はまだ食事中でしょう?
みんなもまだ食べ足りないだろうし、しっかり食べててちょうだい。私有地内だから護衛しなくても大丈夫よ」
スマホと財布片手に、みんなの元から離れる。何度も来ている場所だから、慣れているし心配はない。
のんびりしたいし少し遅くなると伝えたから、急いで帰る必要もないし。