【完】鵠ノ夜［上］

みんな泊まりなのをいいことにアルコールを飲んでいたから、誰も車で迎えには来れない。

ついてないな、と乾いた笑みが漏れた。



でも、少しも不安じゃない。

私有地だからそれなりに安全ではあるし、連絡も繋がる。別荘に傘を置いていなかったような気がするけど、どうやって迎えに来るつもりだったんだろう。



「………」



さみしい、な。

脳裏で蘇る、楽しそうな五人の表情と。耳の奥に残る、楽しげな声を思い出すと。今ここにいないことが、唐突にさみしくなって。



「お前は相変わらず問題児だな、クソガキ」



遠慮のない暴言がふってきて、顔を上げた。

ぱちぱちと瞬きする。それから「幽霊？」なんて笑えもしない冗談を言って、渡される大きなパーカーに腕を通した。



なんでここにいるの、とか。

仕事だって言ってたのに、とか。聞きたいことはあるけど、どれを聞いても「手間かけさせやがって」と言われるのが想像できるから、押し黙った。




「デケェ会議入ってたのに、今日に限ってエアコンぶっ壊れて修理に二日だとよ。

おかげで仕事出来ねえし、仕方ねえから向かってる途中で雛乃にお前を拾ってこいって言われて、なんだ今日は厄日か」



「迷惑かけてごめんなさい」



「……元気ねえな。ほら、さっさと車乗れ。

あいつら、雛乃以外は全員免許所持者のくせにアルコール飲んで迎えに来れねえってクソすぎるだろ」



いくら憩のパーカーを貸してもらったからって、海から上がってまだ一度もシャワーを浴びてない状態で車に乗せるなんて嫌がるはずなのに。

仕方ねえだろ、って言ってくれるのが嬉しくて。



「……安心したら、眠くなってきた、」



「はあ？お前はほんとに子どもか。

……ったく。すぐつくだろうけど寝るなら寝とけ」



まぶたを閉じると、車が滑らかに発進するのを耳で聞く。

そのまま、「雨麗」と彼が呼んでくれたことにも気づかないまま。深い眠りの中へと落ちていった。



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