【完】鵠ノ夜[上]
◆ もし嫌いに、なれるとしたら
・
突然の雨に驚いたものの、割とみんな冷静に引き上げて。
レイが戻っていないことを心配していたら、「連絡しておきますから先に入浴してきてください」と言われてしまった。
コネクティングルームの両部屋にある風呂で、一人当たりにそう時間はかからないから、三十分と少しで五人ともシャワーを終えた。
ちょうど片付けをして戻ってきた小豆さんに尋ねれば、雨が少し落ち着いたら車で迎えに行きますとのこと。
「……小豆さんお酒飲んでましたよね?」
「大丈夫です、まだ素面ですし。
そもそも酔わないので、世間的には飲酒運転になりますけど……今回は甘く見てください」
「小豆さんもたまにぶっ飛んでるよねー」
確かに、この人もたまに普通じゃない。
さすがレイの専属使用人。別にレイが並外れてぶっ飛んでるわけじゃないけどレイに影響されてんのかな、なんて考えていたら、玄関のドアがノックされる音。
誰かまだ外にいるの?と聞いたら、小豆さんは「全員引き上げたはずですけど、」と扉へ向かおうとする。
その隣を、レイと仲良しの雛乃さんが駆けて行った。
「おかえり雨麗ー。……あら?寝てる?」
その言葉に顔を上げると、なぜかレイは。
入ってきた男の人の腕の中で、すやすやと眠っていた。それはもう心地良さそうに眠ったまま、お姫様抱っこされてる彼女。
「……お仕事で来られないんじゃなかったんですか」
「その話は後だ。
雨麗から目ぇ離すなっていつも言ってんだろうが。こいつ着替えてねえから寝かせらんねえぞ、空いてる部屋あんのか?」
「……二階にもう一室、
使用していない二人部屋が」
「和璃と香夢も呼び出しとけ。
お前も纏めてあとで説教だからな」
そう言って、レイを抱き上げたまま階段を上がっていく男性。
どうやら顔見知りのようだけど状況を掴めない俺らを見て、小豆さんは「すみません」と謝った。