【完】鵠ノ夜[上]
「私の兄なんですが……
かなり横暴ですので、いつもあんな感じで」
「え、小豆さんお兄さんいたの?」
「はい。それより、雛乃さん。
……どうして兄さんがここにおられるんですか?」
「なんか、仕事詰めて来たらしいよ?
雨麗には言うなって言われたけど……会いたかったんじゃない?」
「不純と言いたいところですが。
雨麗様を迎えに行ってくださったのは正直助かりましたので、何も言えませんね」
「憩ってほんと雨麗のこと大好きだよねー」
部屋覗いてこよー、と二階に上がっていく雛乃さん。
小豆さんも、「私も一度シャワーを浴びてきますね」と泊まる予定の部屋へ行ってしまったから、俺らも一度部屋に戻ることになった。
「……ぼくたちって、レイちゃんのこと全然知らないよね」
どこか気を紛らわせるように、芙夏が張り切って持ってきたらしいトランプでババ抜き。
言葉を交わさなくてもできるゲームだけど、芙夏のそれに誰からともなく同意が上がる。……たしかに俺らは、レイのことを、よく知らないと思う。
本邸と別邸で別れてはいるけど一緒に住んでる仲なのに。
こんなに近くにいるはずなのに、レイの交友関係とか、仕事内容とか、もっともっとプライベートなこととか、全然知らない。
「お嬢が、男の前で寝ないのもはじめて知ったよねえ。
……いつも俺らより寝るの遅いし、起きんのはやいし」
「俺らのことは知り尽くしてくれてるんだけどね」
ぼそぼそと会話していたら、扉の外から聞こえてきた話し声。
敏感なもので、それがレイのものだとすぐに気づく。外に出て声を掛けるか迷ったけど、話の邪魔はしたくないからやめておいた。
「そもそも同じ年齢のヤツとあんまり合わないんじゃないのか?
年上の知り合いが多いし、何しろ学校では"ああ"だからな」