【完】鵠ノ夜[上]
ん、と短く返事して、レイの頭を撫でる彼。
それから真顔で「お礼は?」と聞いたかと思うと、レイは彼の耳元で何かを囁く。……気にするなって言われたけど、やっぱり気になる距離感だ。
「は。わざとに決まってんだろ」
「やだ。
わたし雛乃ちゃんのお手伝いしてくる」
「あ、おい。逃げんな」
「なんでこういう時だけ動き素早いの……っ!
え、ちょ、和璃たすけて……!」
「はは、いってらー」
「ちょっと和璃……!」
がばっと、彼に担がれたレイが足をじたばたさせる。
なにこれどういう状況?しかも和璃さんの対応だと慣れてるみたいだけど、こんな出来事しょっちゅうあるわけ?
「レイちゃんどこ連れていかれちゃったの?和璃さん」
「んー、俺らの部屋じゃない?
香夢はたぶん雛乃のとこ行ってるし櫁もいないから、ふたりきりだろうね。どんまい雨麗ちゃん」
「和璃さんそれ全然大丈夫じゃないですよね」
「はは、さすがに何も起こんないって。
俺はそれよりも櫁と憩が同じ部屋に泊まる予定なのが嫌だよ。あいつらすげえ仲悪いんだよ」
雨麗ちゃん絡みで、と付け足す和璃さん。
言われなくてもなんとなくそんな気はしてたけど。そもそも彼は、レイのことが好きなんだろうか。随分と仲は良さそうだったけど。
「憩は雨麗ちゃんのこと大好きだからねー」