【完】鵠ノ夜[上]



「あら、線香花火なんてあったの?」



鈴のようにやわらかくて甘い声。

いつの間にか近くに寄ってきていた彼女は俺らの手元をのぞきこんで、「芙夏が一番長持ちね」とくすくす笑った。



「……こいちゃんもゆきちゃんもデート禁だね」



「なんでそうなった?」



「俺は雪深とその約束したけど。

芙夏とは約束してないでしょ。だから無効」



「でもゆきちゃんもこいちゃんも同時に落ちたじゃんかー。

むう。……レイちゃんだいすきだよー」



にっこり。

話している間に落ちた線香花火をバケツの水へぽいっと入れた芙夏は、抜け駆けするかのようにレイに抱きついて笑顔を向ける。……俺らに対する当てつけひどすぎるでしょ。




「なに? デート禁って」



「負けたらレイちゃんと1ヶ月デート禁するんだってー!」



芙夏の髪を撫でて「デートしたかったの?」と聞いてくるレイ。

まあしたくないって言ったら当然嘘なんだけど、デート禁は負けたらの場合であって。勝った時の賭けの内容を思い出して、ため息が漏れる。



「雨麗ー!

最後の噴き上げ花火やるわよー!」



花火のバラエティパックと一緒に買ったらしい、下から噴き上げるタイプの花火。

少し離れたところで雛乃さんがそう言うと、隣にいた香夢さんがそれに火をつけた。家庭用だからもちろん、高く上がるわけでもなければめちゃくちゃ感動するほどのものでもないんだけど。



「……綺麗ね」



花火を見るために振り返ったその姿の方が、花火よりも、どうしようもなく綺麗で。

強く、抱きしめてしまいたかった。



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