【完】鵠ノ夜[上]
「……はあ」
花火が終わるとすぐに、他のみんなは別荘の中へ引き返してしまって。
遊ぶだの話をするだの、各々楽しんでいる中。
砂浜横のコンクリートに腰を下ろして、真っ暗な海を眺める。
別に自慢のつもりもないけど、容姿も頭脳も、それなりに恵まれてきたと思う。困ってきたことなんてほとんどないのに、それなのに、感じる劣等感。
レイが、綺麗であれば綺麗であるほど。
自分の汚れた感情が顔を出して、その差に落胆する。……レイが綺麗であることなんか、端からわかっていたはずなのに。
俺じゃだめだって、見せつけられて理解するのは。
本人に「ごめんなさい」と断られるよりも、ダメージがでかい。
「海のそばだと、やっぱり涼しいわね。
地元じゃ最近暑くて寝苦しいけれど」
背後から聞こえた声に、特別驚きもしない。
もしかしたら来るんじゃないだろうかって、ちょっとは思ってた。誰かを放っておけないことなんか、嫌ほど知ってる。そういう人なんだよ、レイは。
「その割には涼しげな格好しないよね」
「そうね。こんな風に薄手のワンピース一枚で過ごすなんて、普段のわたしからはありえないわ」
「じゃあその格好は、旅行だから?」
「ええ」
ひらりとワンピースの裾が、潮風で靡く。
俺の隣でぺたんと座り込んだ彼女に「汚れるよ」と言ったけど、小さくうなずいただけで、彼女は俺のそばから断じて離れようとしない。
「……レイの優しさって残酷だよね」
ノースリーブで、むき出しの肩。
あまりにも無防備で。……いっそ、めちゃくちゃにしたくなる。