【完】鵠ノ夜[上]
俺や雪深からのアピールには、どこか遠慮がちで。
「ありがとう」って返すのに、彼から捧げられる愛に対して、彼女は完全に受け身だった。受け入れることしか、知らないみたいに。
「……俺らは確かに出会ってまだ長くないけど。
でも本気だよ、レイ。俺は、」
「……ねえ胡粋」
彼女が、立ち上がってぐっと伸びをする。
ワンピースの裾がなびいて、月明かりに照らされて、天女の羽衣みたいだった。……それくらい、幻想的なものが似合う、特別綺麗な人。
「あなたから見たわたしは、何色に見える?」
「……透明」
「甘いわよ、胡粋。
わたしは……血の色によく似た赤と、醜さだけを濾したような黒しか持ち合わせてない」
つまり、と。
微笑んだ彼女。優しく微笑んだはずなのに、絵画の中の聖母のようなのに。……薄ら寒さが、背中を這った。
「あなたが見ているものは……
すべて作り上げた幻想に過ぎないの」
「、」
「綺麗でもなければ、純粋でもない。
優しくもないし……むしろあなた達はわたしに利用されるために存在してる。なのにそれでも、わたしのことを好きと言える?」
「言えるよ」
自分でも驚くくらい、即答だった。
だけど今これを逃したら、もう言えないんじゃないかと思ったから。だからこの際、はっきり言っておこうと思っただけのこと。……俺は。
「こんな言い方するのはあれだけど。
家柄のせいで、レイがどんな悪事に手を染めたとしても、好きでいられる。……好きになって、今はもう、レイと堕ちる覚悟ぐらいは出来てるよ」