【完】鵠ノ夜[上]
「例えそうだとしても、わたしは、」
「レイは俺らが、命令されて御陵に来たから……
レイのことを、大事に守ると思ってる?」
そんな訳ないのに。
俺らのことは俺ら以上に分かっているはずが、どうしてそう自分に向けられる感情については理解してくれないのやら。
「違うでしょ。
……俺らが、レイのことを好きだからだよ」
この手で、本気で守りたいと思ったから。
ほかの何でもなく、レイだからこそ、守りたいと思った。──紛れもない、自分の手で。
「レイが悲しい時は俺が慰めたいし、さみしい時はそばにいてあげたいし。
傷ついたときはこれ以上傷つかないように守ってあげる。……だから、」
俺の気持ちを受け入れるぐらいはして、と。
穏やかな波に溶けそうなほどの声で告げたけれど。彼女には届いたようで、小さく、こくんと頷いた。
今はまだ、付き合うなんて形にならなくてもいい。
贅沢を言うならそうなりたいけど。……気持ちを本気で受け入れてくれる方が、大事だから。
「……、」
肩に顔をうずめている俺の髪に、レイが触れてくる。
目を閉じてされるがままにジッとしていたら、しばらくして「戻りましょうか」とすっかりいつもの調子で言ってくる彼女。安定の切り替えのはやさに、もう苦笑するしかない。
「あれ。
……兄さんと、お会いしませんでしたか?」
「……憩?」
「ええ。雨麗様のところへ行くとおっしゃってましたが、入れ違いになったのかもしれませんね」
別荘に戻ると、風呂上がりらしい小豆さんと出くわした。
海から上がった後にシャワーを浴びていたけど、そのあとも彼はバタバタしていたからもう一度入ってきたらしい。