【完】鵠ノ夜[上]
「……そう。
じゃあわたし、探しに行ってくるわね」
「私も行きましょうか?」
「ううん、大丈夫。
胡粋、部屋に戻ったらみんなに"あんまり夜更かししちゃだめよ"って伝えておいてね」
それじゃあ、おやすみなさい。
綺麗な表情で微笑んで、レイが来た道をもどっていく。その背中を見つめていたら、小豆さんがくすっと笑った。
「雨麗様のこと、心配ですか?」
「……大丈夫です。
俺はレイのこと、絶対に信じてますから」
レイは俺らを守る嘘はつくけれど。
俺らを裏切るような嘘は、絶対につかない人だから。
誰に向けたものなのかもわからない「大丈夫です」をもう一度告げて、安心したように微笑んだ彼とその場で別れた。
そのまますることもないからと部屋にもどれば、なぜか部屋には三人だけ。
ベッドで寝転んでいた芙夏に「おかえりー」を言われて、違和感もなく「ただいま」を返した。
俺が寝る場所じゃないけど、空いているベッドに腰掛けて雪深どこ行ったの?と聞こうとしたら、扉が開く。
「ただいま〜。
ん、これ〜、憩さんが俺らの分って」
「……アイス?
っていうか、なんで憩さん?」
「散歩でもしようかな〜ってもっかい外出たら憩さんと出くわしたんだよねえ。
『暇なら付き合え』って言われたから、スーパーまでアイス買いに行ってきた〜」
結構面白い人だったわ、と満足げな雪深。
どうやら、ふたりでスーパーに行っていたから、レイに用事があった憩さんと出くわさなかったらしい。
「……その憩さんは?
小豆さんが、憩さんがレイを探してるって言ってたから、レイも憩さんを探しに戻って行ったんだけど」