【完】鵠ノ夜[上]



スーパーの袋からがさがさとアイスを取り出しながら、雪深は「知ってるよ〜」と一言。

顔を上げた雪深は眉尻を下げて、困ったような表情。……抱いてる気持ちは、俺とそう変わらない。



「いま帰りにお嬢と会って。

……まあ元から、憩さんの用事はお嬢にあったみたいだから、何も言わずに帰ってきたけど」



床に座っていた雪深が、「はぁ」とベッドに背を預けてもたれかかる。

彼女のことが愛おしくて、触れたくて、なのに今は叶うことのないそれら。その癖、一人前に嫉妬だけはする。



「……しんど、」



「……憩さん。

レイのことで、なんか言ってた?」



「んーん。

お嬢のこと好きなの、誰の目から見たってわかんのに。俺の話聞いてくれてばっかで、全然何も言わねえの」



いっそ、レイのことが好きだって最大限にアピールしてくれるなら、こっちだってそうは思わないのに。

何も言わないその余裕加減が、逆にしんどい。




「急にこんなこと言うのもなんだけどー」



寝返りを打って仰向けのまま俺らを見た芙夏が、口を開く。

そこから出てきたのは、俺らが予想していなかったことで。



「……ぼくらの護衛の任期って、いつまでなの?」



「………」



「……ほら、一年とかだったりしたらー。

もう半年ぐらいしかないなあって、」



そう、だ。言われてみればそうだ。

俺らは御陵のお嬢を護衛しろと言われて関東に出てきたけど、いつまで、とは聞いていなかった。それは関心がなかった、っていうのもあるけど。



「ぼくたち、一応御陵五家の若でしょー?

いつかはみんな、地元に帰って継ぐんだしー」



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