【完】鵠ノ夜[上]



すっかり意気消沈してしまっている雪深。

憩さんから感じた余裕に、それだけ自分の余裕のなさを追い詰められてしまったのかもしれない。



「もうさ……

どうしたらいいのか、わかんねえの、」



「、」



「……お嬢はずっと、あんな感じだし。

いっそ嫌いになれるようなことしてくれたらいいのに、そしたらまた落ち込むのわかって、結局俺が逃げてるだけなんだけど、」



いつものへらへらした無気力さはそこにない。

本当は誰よりも一途で、レイのことだけを想って、真剣に考えてる。……俺じゃ敵わないって、思わせられるくらいに。



「でも諦められんなら、

初めからこんなに好きになってないし」



詰んでるって、こういう状況かな、と。

現実逃避みたいに言葉にされるのが痛々しくて、思わず雪深から目を背けた。




「てか、溶けるからアイス食おー。

せっかく憩さん、ちょっとリッチなの買ってくれたのに溶けたらもったいないだろ〜ほらほら」



何味がいいー?と、数秒前までのシリアスな雰囲気はどこへやら。

無理やり部屋の空気を明るくしようとした雪深に続いて、芙夏が「何味があるのー?」とその手元を覗き込む。



「胡粋は絶対コレだろ〜」



弧を描いて、ぽいっと放ってきたアイスは抹茶味。

ちゃんとわかってんじゃん、と口角を上げて、その雰囲気に乗っかることにした。……何言ったって、状況は変わんないわけだし。



「はりーちゃんのレモン味ちょっとわけてー。

あ、でもシュウくんのクッキークリームも美味しそう、ぼくのチョコわけてあげるからちょっとちょーだい」



「食いすぎて後で後悔しても知んねーぞ」



どれだけ世界が歪になろうと、そこに朝と夜は存在する。

レイに夜更かしするなと言われたけれど、結局その日は遅くまで話し込んで、カードゲームで遊んで。最終的に昼間の遊び疲れで、全員寝落ちしたのは言うまでもない。



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