【完】鵠ノ夜[上]



「え、誰? こんなところに屍置いたの」



「俺、人生で胡粋以上の猫かぶり見たことない」



──翌朝、別邸リビング。

テレビと三つのソファでテーブルを囲むような形で、各ソファは二人掛け。



テレビに向かって左側のソファで横になって頭を抱えていたら、いきなり屍扱いされた。

……胡粋なんて、お嬢に猫かぶりがバレて嫌われれば良いのに。



どういう振り分けをしたのかは覚えてないけど、俺と胡粋は同じソファ。

向かいがはとりと柊季の席で、芙夏の隣はお嬢がここへ来たときに座るスペースだから、普段は空いているか物置になってるかのどちらか。



「そもそもゆきちゃん、なんで屍になってるの?

ぼく起きてきた時は、はりーちゃんとゆきちゃんのふたりだけだったよねー?」



「……俺より先に雪深は居たからな。

俺がここに来たときは、まだ寝てたけど」




はとりの答えに、「寝てた?」と首をかしげる胡粋。

別邸に帰ってきたのは、午前五時。部屋にもどる気分じゃなくてソファに横になってたら、軽く一時間ぐらい寝落ちた。いま寝不足で頭痛いけど。



あの後お嬢には、何も言わなかった。

お嬢からも、何も言われなかった。──お嬢が俺のことを好きだって言う可能性は、100%が上限のパラメーターで200%の結果を出すのと同じくらい。バグだ、バグ。天と地がひっくり返るってやつ。



つまり、万が一、億が一、兆が一。

そのわずかな数値から叩き出される"一"という数すら有り得ないほど低い。いっそゼロだとかマイナスだとか、そんな端的に有り得ないんだと言ってくれればいいけど。



兆が一なんて、思うのは。

決してその可能性があり得ないと否定しきれないからだと、御陵の頂点に立つ人が言っていたからだ。



……まあ。



「お嬢さ……

言ってた、婚約者のこと。好きみたいだよ」



あり得ない、って言葉の方が、あり得ねえんだけどさ。



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