【完】鵠ノ夜[上]
「俺難しいこととかよくわかんねえからさ~」
胡粋のように頭は回らないし。
柊季みたいに「それがどうした」って言い切れるような男でもない。
「俺はお嬢のこと、すげえ好きだから。
お嬢にも好きでいてほしいし、ほかのヤツと結婚なんてしなきゃいいのに、って思うんだよねえ」
「……それは俺もそうだけど」
きっと、結婚なんてしなきゃいいと思っている部分に関しては、胡粋だけじゃなく全員の同意を得られると思う。
はとりも、芙夏も、柊季も。感情が違ったとしても、間違いなく、お嬢のことは大切に思ってるから。
「公私混同は、したくないんだろ。
……雨麗は、俺らよりもっと先のことを考えてる」
また変な沈黙が訪れた部屋。
ただ黙って話を聞いていたはとりが、穏やかな口調でそれを割る。その声は、どこか俺らを窘めるようにも聞こえた。
わかってる。
俺らは、あくまで護衛なんだってこと。
口を出せる立場じゃないし、守ることしかできない。
わかってるけど、彼女のことを誰よりも大事に思ってしまった。どうしようもないほど特別だって、頭の中がそう告げてる。
一度、好きになってしまったら。
どう頑張ったって、好きになる前には戻れない。
「好き、ってさ」
「………」
「……こんなに、難しい感情だった?」
胡粋のそんな問いかけには、誰も返事をしなかった。
恋愛感情がないと一蹴したはずの、柊季さえ。
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