【完】鵠ノ夜[上]
「……都合良く駒を使う女だと思ったでしょうね」
「そんなことないよぉ、もーう。
レイちゃんは、ぼくたちのことちゃんと考えてくれてるよ?ただ"駒"だと思ってる人に、ぼくたちははじめから仕えたりしないもん」
だから、ネガティブに考えちゃだめ!と。
芙夏に慰められて、「ありがとう」と彼を抱きしめた。ふわっふわのパンケーキより甘い笑顔を見せてくれて、自然とわたしも笑みを零す。
「レイちゃんはー、
ぼくたちと仲良くなりたいって思ってる?」
「仲良く、って言い方は少し違うと思うの。
……ただ、何も言わなくても信頼し合える関係を築きたいのよ。自分のためにも、御陵のためにも」
「そっかぁ。
いっぱい色んなことあって、むずかしいねえ」
ごろーん、とわたしの隣で寝転ぶ芙夏。
小豆は口うるさいため「茲葉様」とやんわり牽制するように名前を呼んだが、わたしが気にとめていないことに気づいたのかそれ以上は何も言わなかった。
「でもねー、みんな、べつにレイちゃんのことが嫌いなわけじゃないんだよー。
んーと、ね、たとえばレイちゃんが普通の女の子だったら何も問題ないんだけど。……御陵のお嬢、っていうのがネックなんじゃないかなぁ」
「……でもそれは、」
「うん。護衛として呼ばれた以上、御陵のお嬢として接することしか、ぼくたちには出来ないでしょ?
レイちゃんに馴れ馴れしくする訳にもいかないからね」
別に、友達ごっこがしたいわけではない。そんなことくらいはじめからわかっていた。
もしわたしが、男として今世に生まれていたら。──もし御陵に、男の跡取りがいたなら、彼らは必要のない存在だったからだ。
「あ、」
「……どうかされましたか? 雨麗様」
「ううん、なんでもない」