【完】鵠ノ夜[上]







「あ、美味しい。

ねえ胡粋、粒餡かこし餡どっちが好き?」



「和菓子には絶対粒餡でしょ」



「そう? わたしこし餡の方が好きなのに」



書店でとりあえず一冊透明な雰囲気の本を選んで、胡粋と合流した時点で時刻は14時半。

そこから行きたいところがあるの、と連れていった先は、創業が150年を越える老舗の和菓子屋さん。ちなみに、我が家御用達の店である。



「雨麗様、おひさしぶりです」なんて恭しく迎えられて、この春新しく出たばかりだという和菓子とお茶を頂いていたところだ。

ちなみに胡粋が和菓子好きであることも既にリサーチ済み。その情報どこから入手してんの?と訝しげに見られたが、秘密、と言っておいた。



「五家のみんなにもお土産で買って帰ろうかな。

胡粋、みんな和菓子好きだと思う? 芙夏は甘いもの好きだから食べてくれると思うけど」



「……俺の好きなものはリサーチしてあるのに、そこはリサーチしてないんだ」




しれっとつっこまれたけど、食べるんじゃない?と返してくる胡粋。

食べないなら俺が食べるよ、と彼は言うけれど。いまも既にいくつか食べているのに、どれだけ和菓子好きなんだ。珈琲は無糖派だって言ってたくせに。



「そう。

なら、五家のみんなの分と……あとは組員たちも食べるだろうし、」



「待って。

そんなに頼むのはいいけど、どうやって持って帰るの?俺らふたりなんだけど?」



「小豆に連絡してあるから、すぐに車で来るわよ。

ああそうだ、この後どうする?あんまり振り回しちゃダメかと思ってプランはここまでなのよ。どこかに出掛けても構わないし、車で帰ってもいいけど」



好きに頼んだ和菓子を紙袋に詰めて用意してもらっている間に、彼を振り返る。

胡粋は「俺もどっちでもいいよ」と言ったあと。わたしの足元に視線を落とし、それから顔を上げてもう一度口を開く。



「……やっぱ、やめた。

お嬢がめずらしい洋装で疲れてないって言うなら、もうちょっと付き合ってもらおうかな」



「平気よ。どこに行きたいの?」



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