【完】鵠ノ夜[上]
たとえ、恋愛感情なんてなかったとしても。
こんなに綺麗な女に、「添い寝して」と誘われたら勘違いする男なんて山ほどいる。無論、勘違いしたくても勘違いできない男もここにいるけど。
「今日はちょっと……ひとりになりたくないのよ」
「……何か嫌なこと言われたの」
身を寄せてくるレイが、甘えるように胸元に顔を寄せてくる。
他人とは思えないほどのその距離感に眩暈がしそうだ。それでもレイの元気がなさそうだから、そんなことを考えている暇もなく。慰めるように腕を回して、髪を撫でてやることぐらいしかできないけど。
「何か言ってくれた方が、よっぽどマシよ……」
「……うん」
「何も言ってくれないから……苦しいの」
一人の少女に課せられた、跡継ぎの運命。
極道という他人からは理解されない組織の中心に生まれたレイ。甘やかすことも甘やかされることも許されずに、流されてしまわないように、必死で生きてきた。
これから先もそれは変わることなく、何度も何度も自分を押し殺していく。
我慢という言葉で抑えられる限界は、とっくに超えているのに。重荷となって、レイの肩に伸し掛る。
「……抱きしめてれば、いい?」
「、」
「そしたら……
レイが泣いてても、見えないでしょ」
返事を聞く前に、彼女のことを強く抱きしめた。
それでもしばらく反応がないから眠ったのかと思ったけど、途中で頼りなく俺の服を掴んだ手。ギュッと握って、それでも、レイは泣かなかった。
「レイはちゃんとがんばってるよ。
御陵の跡継ぎなんて、男でも大変なんだから。……あいつらのことは俺も手伝うし、できることなら何でも協力する」