【完】鵠ノ夜[上]



「お嬢と一夜仲良くしてきた?」



「語弊しかないよね。

一時間ぐらい一緒にいただけだから」



「へえ。胡粋がハマるんだから、いい女なんだろうと思ってさ~?

ここに住んでから夜に外抜け出せねえし、女の子と遊べなくて退屈なんだわ」



「……レイに余計な事しないでよ」



「相当ハマってんじゃん」



ふ、と雪深は笑うけど、馬鹿にしているようにしか見えない。

……いや、本当に馬鹿にしてるのかもしれないけど。五家の中で唯一、本気で恋愛なんてしなさそうな男だ。何なら恋愛なんてくだらない、と思ってるのかもしれない。



俺だってそんなに恋愛に執着がある訳ではないし、偶然にも、予想外のところでハマってしまっただけのこと。

どうせこいつには理解されないと早々にあきらめて言葉を返すのをやめると、不意に静かになるリビング。その中で。




「お前ら、何でそんなにいつも起きんの早ぇんだよ」



「おはよぉ、シュウくん」



「ん、はよ……ねみー……」



階段を下りてきたシュウが、リビングを突っ切りキッチンに行ったかと思うと、冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを取り出す。

それを見て、今朝の彼女のことを思い出してしまうんだからどうしようもない。世界がすべて、彼女中心に回るんだから。



「……あ、そーだ。

雪深。お前、こないだお前三股してたのバレたらしいな」



「……別にどのコとも付き合ってないけどねえ」



「その女達の怒りの矛先が、

お前の主人だからって理由であいつに向いたらしいぞ」



< 56 / 271 >

この作品をシェア

pagetop