【完】鵠ノ夜[上]
それを聞いた雪深は、スマホから顔を上げて。
シュウと視線を合わせたかと思うと、「お嬢?」と首を傾げる。心底理解できないって顔だ。問題を作ったのはお前のくせに。
「女って怖ぇ生きモンだよなー。
一応"護衛"なんだから放っていけねーだろ。仕方なく様子見てたら、女三人にすげえキレられてたけど、あいつ一人で上手いこと宥めてたぞ」
「……それいつの話?」
「んー?週末の前だから、金曜じゃね?
お前、好き勝手やりすぎて相当女同士で揉めさせてるみたいじゃねーか。なんか、あいつがそういう目に遭ったの今回だけじゃねーらしいぞ」
「どうりで、
しつこかった子から連絡来なくなるわけだわ」
「雪深。遊ぶのは自由だけどレイの手を煩わせるようなことしないでよ。
ただでさえ俺らより忙しくしてるんだから」
「ハイハイわかったよ。
お嬢側についたら途端にうざくなったな……」
ぼそっと文句を落とす雪深に、こっちも舌打ちをしたい気分だけど。
どうせ言い合いになっても芙夏が困るぐらいで誰も止めてくれないだろうからやめた。価値観が違うんだから、言い合うだけ無駄だし。
「……あれ、」
そんな仲は決して良くない俺と雪深は、どういう運命なのか同じクラスで。
これまた仲は良くないけど移動教室はなんとなく一緒にしてる。今日も移動教室から教室へもどる道すがら。レイと向き合って、男女が話しているのを少し遠くに見つけた。
「男に言い寄られてるって感じでは、ねえな~。
つーか、カップルに言い寄られてる絵面はおかしいだろ」
「……あの女の子、雪深が遊んでた子じゃないの」
「ん?……ああ、言われてみればそうかも。
っつうことは、俺のことで揉めてんのかよ」
自分が蒔いた種のくせに「めんどくせえ」とつぶやいた雪深は、スタスタとレイの方に足を向ける。
そのまま俺もつられるようについて行けば、徐々に声が聞こえるようになって、案の定雪深のことで揉めているらしかった。