【完】鵠ノ夜[上]
「俺がお嬢のこと"彼女"って紹介したらどんな反応すると思う?
……いや、逆に"ご主人様"って言った方が、おどろくか」
「ねえ、雪深」
「ん? なに、お嬢」
「あなた今、ものすごく楽しそうね」
わたしが価値を与えなくとも、その本質を持ってるってこと。もちろん気づいていたけれど。
今後の予定を考えて楽しそうに笑う彼を見ていたら、口に出してみたくなった。
自分のことに、ひどく鈍感な人だから。
「……ほんと、だ」
案の定、気づいてなかったようで小さくつぶやく雪深。
彼に足りないものは、価値を与えてくれる人じゃない。彼が本来持っているその価値に、気づいてあげられる人だ。
「胡粋も、あなたのことちゃんとわかってたじゃない」
いつも顔を合わせれば口喧嘩してるけど。
雪深に価値があることを、胡粋も彼に伝えてくれた。……言い方はすこしアレだったけど、雪深にもしっかりと伝わっただろう。
「胡粋に言われたってのがなんかムカつく」
「ふふ。あなたが思ってるよりも。
……みんなあなたのことが好きなのよ」
「……うん」
もっとたくさん、みんなと時間を過ごして。
誰一人も欠けてはいけないのだということに、少しずつ気づいてくれたらそれでいい。