【完】鵠ノ夜[上]
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「お嬢、おーはよ」
雪深と話をした、その二日後。
五家の雰囲気もだいぶやわらかくなってきたわね、と考えながら歩いていると、朝食に向かう途中の廊下でばったり五家のみんなと出くわした。
「あら、雪深。おはよう」
五家のみんなの食事は本邸で作っていて、基本的には本邸の一部屋が、五家の食事で使う部屋になっている。
いつもなら会わないけれど、一度庭の桜を見に行ってから朝食に向かうわたしと、ちょうど時間がかち合ったらしい。
隣の小豆が、おはようございますとにこやかに声をかけた。……が。
「ちょっと待って、距離近くない?」
その空気をどことなく不穏なものに変える、胡粋のつぶやき。
それもそのはず、雪深はわたしを見つけてすぐに腰に腕を回してきたからだ。さすが女慣れしてるだけのことはある、距離感がおかしい。
胡粋のそんな指摘もそっちのけ。
わたしの髪に細い指を這わせた彼は、色香を纏いながら「元からこんなもんでしょ?」と、胡粋に挑発するような視線を向けた。
「いやいや、おかしいから。
なんでレイもしれっとしてんの?」
「俺とお嬢はとっくに、ふかーい仲だもん。
ねえ?一緒に一夜過ごし、」
「語弊があるからやめなさい、雪深。
朝から風紀が乱れるでしょう。……芙夏、調子悪そうだけど平気?顔色悪いわよ?」
甘えるようにすり寄ってくる雪深は、ひとまず置いておく。
顔色の悪い芙夏に声をかけたら、どうやら風邪と花粉症を同時発症しているようで、体調が良くないらしい。額に触れたら今熱はないようだけど、いつものような元気さがないのは明らかだ。
「食欲は?
朝食も食べやすいものに変えてもらう?」
「食欲はない、かなー……
おなかすいてるんだけど、あんまり食べれないかも、」