【完】鵠ノ夜[上]
それを聞いた小豆が、わたしの指示を待たずとも、その件を伝えに行ってくれた。
雪深に離れるよう言えば、しぶしぶ離れた彼に胡粋が声をかける。
おかげで言い合いになっているけれど、そっちは自分たちで何とかして欲しい。
芙夏を見れば、彼は不安げに見つめ返してきた。
「……ごめんね、レイちゃん」
「いいのよ、誰にだって体調が悪い時はあるもの。
雪深胡粋、頭に響くから言い合いするのはやめてちょうだい。先に四人とも、朝食を済ませてきて」
「えー。芙夏だけお嬢と一緒にいんの、ずるい」
「そこに関しては雪深と同意見なんだけど」
「いいから行ってきなさい」
文句を言うふたりにため息をついて、はとりに「お願いね」と頼めば、彼はあっさりふたりを連れてこの場を去ってくれる。
柊季もそれについていったため、この場には必然的にわたしと芙夏のふたりだけ。さっきまでの騒がしさが嘘のように静かだ。
きゅ、とわたしのブレザーの袖をつかむ芙夏。
その瞳が、自然と潤んでいく。……いまは平気だけど、放っておいたら熱が出てもおかしくないと素人でも確信するほどには体調が悪そうだ。
「今日は学校休みなさい。
わたしは学校だけど、送迎からもどってきた小豆にそばについてもらえるよう、お願いしておくから」
「でも、小豆さんいそがしい、でしょ?」
「小豆の仕事で最優先事項は、わたしが直々に下した命よ。
わたしが芙夏の面倒を見てと言ったら、ほかのどの用事よりもそれが優先なの。わかった?」
わたしと大差ない身長。
一番瞳を合わせやすい芙夏としっかり目を合わせれば、彼はこくんとうなずいた。一つの言葉に対して深読みしてくる胡粋や雪深、何に関しても無関心な柊季に比べれば、芙夏は相手しやすくて助かる。
これがもし雪深だったりしたら、「学校休んでそばにいて」だの「看病して」だの言いかねない。
……それが想像できるから困る。