【完】鵠ノ夜[上]
「雨麗様。ゼリーやお粥などでしたら用意できるとのことですので、お願いしてきました。
茲葉様は、準備が整うまで別室でお休みください」
伝言を終えてもどってきた小豆が、わたしから芙夏へと視線を流す。
いつもなら彼はこのあともわたしの付き添いとして準備を手伝ってくれるが、今日は構わないと言って芙夏のことを任せた。彼が過保護なだけで、わたしだって一通りのことは出来る。
「……芙夏、大丈夫かしらね」
「レイ、さっきから芙夏のことばっかり……
そんなに心配しなくても、男子中学生そう簡単に死なないから。むしろ静かでいいんじゃない?」
「あなたは本当に嫌味ばかりね」
学校に向かう送迎車の中。
いつもならひとりだけ行き先が違うため芙夏が通う中学へ送迎している運転手が、代わりにわたしたちを高校まで送ることとなった。
というのも。
あの後なんとか少量ながらも朝食を済ませた芙夏の熱が上がってしまい、わたしが小豆に「送迎もいいから芙夏の面倒を見て」と言ったからだ。
いつも明るくて元気な芙夏がぐったりしているのを見ると、とても心配になってしまう。
「今日の放課後。
芙夏のこともあるからわたしは早く帰るけど、みんなはどうするの?」
一緒に帰る?と聞けば、はとり以外の三人はそれを断った。
雪深は美容室に髪を染めに、胡粋は買い物に、柊季はどこに行くのか教えてくれなかったけど出かける、らしい。
「そう。なら、はとりは一緒に帰りましょうね。
みんなは遅くならないように帰ってきてちょうだい」
高校の裏門そば、いつもの場所。
車を降りて学校に着けば、そこからは基本的に別行動だ。はとりや柊季はひとりでさっさと行ってしまうし、雪深は女の子に囲まれているし。
「お嬢。……また放課後ね」
わたしもさっさと教室に行こう、と思っていれば。
女の子に囲まれていたはずの雪深がわたしの耳元でそう囁いてぽんぽんと頭を撫でるせいで、女の子たちに睨まれた。