【完】鵠ノ夜[上]
前々から、彼等が御陵五家と呼ばれる人間であり、わたしの下につく人間であることは、有名な話。
偶然というか、五家の人間全員が綺麗な顔立ちをしているせいで、元からわたしが良い存在でないと思われていることはわかっていた。
それでも、うまく関係を築けていなかったこともあって、直接的に睨まれるようなことはまずなかった。
だけど。彼等と親しくなったことが表に出てきた瞬間、これだ。
彼等の容姿が秀でたものではなかったとしたら、きっと女の子たちはわたしのことなんて気にも留めないのに。
五家の心の中にそうやって影を落としているのは、いつだって女の子たちな気がしてしまうのは、間違っているだろうか。
雪深がもし優れた容姿ではなかったら、浮気相手にされることもなかったかもしれない。
芙夏のお兄さんの彼女さんだって、茲葉のことを受け入れてあげられていたら、彼は亡くなったりしなかったかもしれない。そうすれば、芙夏の心だって。
すこしは救われたかもしれないのに、なんて。
悔やんだって遅いことばかりが脳裏をよぎる。遅いからこその、後悔だって、わかってる。
手遅れになる前に気づけていたら、後悔になんてならないから。
あとすこしでも、わたしが彼等と早く出会えていたなら。その心に影が落ちる前に、救ってあげられたかもしれない。
そう思うのが後悔ではなく、心惜しさだとしたら。
……それすらも綺麗事なのに、よく言う。
「……立ち止まってる場合じゃない、わ」
些細なことでくよくよしている時間はない。
そんなことをしている暇があったら、すこしでも自分の強さを磨いた方が、よっぽど自分のためになる。
決めたことがある。──御陵の跡継ぎになると、実感したとき。
死ぬまで気高く、御陵のお嬢として生きていくんだと。気の迷いで、胡粋に縋った数日前のわたしは、捨てるべき過去のわたし。
"白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ"
いつだったか耳にした短歌が、脳裏で色を魅せる。
この歌の「白鳥」は、ハクチョウではなく、しらとりだ。──鳥の種類は鴎。
気高く美しく、ハクチョウでいたいんでしょう?と。問いかけてくる自分自身に頷けなかったのはどうして、なんて。
きっとそれすら、馬鹿げた話だ。
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