【完】鵠ノ夜[上]
◆ 褪せぬ世界、振り出しへ
・
案外あっけなかったと思う。
あの人との終わりも、この世界も。落ちるのも。
「ねーえ、雪深。
御陵さんの頭撫でてたでしょー。なにあれ、ずるい」
登校してすぐ。
お嬢の元からもどれば、腕を絡ませてくる女の子は、俺に日々言い寄ってくる子のひとり。ぶっちゃけタイプじゃねえから、今までも口説かなかったけど。
「ご主人様に可愛がってもらうためには、日常の積み重ねが必要じゃん?
……おっと。ごめん、俺胡粋と行くから。またね」
「あ、ちょっと雪深!」
めんどくせえ、と自然に湧いた気持ちに、自分でもびっくりする。
しつこい子に対しても、「まあ俺のこと好きだって言ってくれてるし」なんていう許容があったはずなのに、そんな感情は微塵も湧かなくなった。
数人の女の子をあしらって胡粋の横に並べば、憎たらしいと言いたげに睨まれる。
なんで一緒にいるんだろう。クラスが同じだからって理由なら、来年からは一緒にいなくても済むかもしれない。
「なんなの、お前。
昨日もレイに優しくなったなって思ってたけど、今日の朝のあれとか。軽々しくひっつくのやめてくんない?」
「なんで胡粋に、そんなこと言われなきゃなんねえの?」
「俺がレイのこと好きだって知ってるくせに」
まあ、そりゃあねえ。
俺に敵意むき出しだもんな、と今朝のことを思い出す。むしろあれだけ嫉妬をちらつかせておいて、気づかないお嬢がすごい。……気づいてるのかもしんねえけど。
「どんな理由なら、納得してくれんの?」
「レイのことが好きだっていう選択肢以外で、
必要以上に距離を近づける正当な理由があるなら」
「じゃあ無理だわ」