【完】鵠ノ夜[上]
すぐさま一蹴。
それを見て顔を顰めたのは、俺の感情に気づいたのか、否か。……いや、はかりかねる、って顔してるのか。
「……まさかとは思うけど、
レイのこと好きになったとか言わないよね?」
「嫌だって思うなら言わないことにする。
言わないだけで、どう思うかは自由だから」
「それなら好きって言えよムカつくな……」
我ながらふざけた物言いだな、と自覚はしてるけれど。
だからってこれ以上どうすることもできないし、一回触れた感情から目を背けることもできない。自覚した感情に染まってしまうのは、当たり前のこと。
「なに……
お前も俺みたいにレイの話聞いて、惹かれたってこと?それとも、なんか別にあったわけ?」
敵情視察、ねえ。
まさか、朝っぱらから学校でお嬢と夜中にキスしてました、なんて堂々と言えねえし。
それより、何気に俺って贅沢なことしてもらったんじゃ……?
好きになる前だったからこそ不可抗力と言ってしまえばそれまでだけど、思い返せばあの空気も、お嬢の視線も。独占欲なんて欠片もないのに痕を残すわずかな痛みも、鮮明に覚えてる。
たとえば、焦らすように肌をなぞる、あの。
「……ねえ、顔赤くない?」
胡粋にすかさず言われたせいで、離れかけていた意識が現実にもどってくる。
手で頰に触れてみれば、ちょっとだけ熱い気がした。いやいや、こんなんで赤くなるほど純情じゃねーよ、俺。
「んん……べつに。
どうやって好きになったとか、そんなの自由じゃん?」
「自由だけど……
っていうか、なにその反応。赤くなるようなことしたの?」
「誤魔化してんだから聞くなよ!」