【完】鵠ノ夜[上]
「べつに。
話の内容的に、お前が無理やりレイに乱暴なことしたわけじゃなさそうだし。……ただ」
「ただ?」
「……お前だから出来たことだって思ったら、悔しいし羨ましいって思っただけ。悪い?」
「………」
勘違いしてた。
俺への当たりは強いし冷たいし、屋上ではそれっぽいこと言ってくれたけどやっぱり仲良くはなれそうにないけど。──そんな顔すんだ、胡粋でも。
「ちょっと、なんか反応してくんない?」
人間味がなかったのかもしれない。
皮肉や嫌味ばかりで、誰かを褒めたりすることがなかった胡粋が。たった一日でお嬢の味方について、お嬢を好きだっていうことに実感が湧かなかった。だけど。
「俺……いまの胡粋、嫌いじゃないよ」
「は? 何言ってんのお前」
本気なんだって、ちゃんとわかった。
どうでもよかったら、そんな顔しない。お嬢のことどうしようもなく好きなのは、たぶん俺も、おんなじだから。
「でも……
やっぱりお嬢のことは、譲れないから」
「そっくりそのまま返していい?
言っとくけど、先に好きになったの俺だし」
「たった数日の差だろ」
譲りたくないし、譲れない。
できることならお嬢に俺だけ見て欲しいし、俺にだけ手を伸ばして"価値"を与えてくれると言ったそのくちびるで、俺にだけ「好き」って言って欲しい。──ああ、貪欲。