【完】鵠ノ夜[上]
言いながら、腰を上げる。
お嬢が「わかった」と流すように俺へと視線を向ける様にどことなく色っぽさが香って、途端に触れたくなった。
「芙夏、はやく体調なおせよ?
お嬢のこと独り占めされんの嫌だし」
「ふふ、ゆきちゃんほんと感情に忠実だねー」
他の女なら思わないのに、お嬢を見ると何気ない仕草でも触れたくなる。
これって恋愛効果?と思ってたけど、あの人の時はそんな感情抱かなかった。だからきっと。お嬢だから、こんなにも触れたくなる。
「あ、雪深。ちょっと待って」
「……ん? どしたの、お嬢」
部屋を出ようとすれば引き止められて、歩み寄ってきたお嬢が俺を部屋の外に連れ出す。
芙夏の目から遠ざけるように襖を閉めるから、どうしたのかと不安になった。そんな俺に「はい」と渡してきたのは、俺とあの人が写る写真。
「……お嬢が見た写真って、これ?」
「そう。あなたが関東に来るのと同時に、あなたのお母様が部屋を片付けたら出てきたものだって言ってたわよ。
……わたしには必要のないものだし、あなたに渡すのが一番かと思って」
「……ん、もらっとくわ」
俺にももう、必要のないものだけど。
その写真を受け取ると、お嬢は部屋の中に戻ろうとする。その腕を掴んで引き寄せ、後ろから抱きしめるようにしながら、耳元で「ありがと」と小さく囁いた。
……すげえわざとらしいな、俺。
お嬢が好きって言う事実がどんどん表に出てきてる。自分の行動にすら歯止めが利かない。囁いた俺にお嬢が振り返る。その表情を見るよりも早く、踵を返した。
ああやって、彼女を煽るように仕掛けるくせに。
その反応を見られないのは俺がまだ踏み出せないからで。だからこそ"好き"って気持ちは、ちゃんと伝えようと思った。
俺の過去を清算する、今週末に。
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