【完】鵠ノ夜[上]
なにそれ、と頭上にはてなを浮かべれば、「どの季節もよく似合う」と言われた。
……なるほど、季節映えってそういうことか。
「春の桜も似合うし、夏の爽やかな空気も、秋の大人びた雰囲気も、冬の雪の中の切ない感じもさ。
……ぜんぶ、よく似合うなと思って」
「褒めすぎじゃない?」
「んなことねえよ。
でもまあ、俺住んでたの北海道じゃん?一般的に想像するような雪の切ない感じじゃなくて、豪雪の中で育ったけど」
くすくす。鈴を鳴らすようにやわらかく笑った雪深。雪深は冬生まれで名前もそのままだけど。
彼自身は、すごく温かい人だ。季節映えするのは、それこそ雪深の方な気がする。彼の、凍てつくような冬のイメージは消え去って、今じゃふわりと舞い落ちる粉雪のように穏やかで。
「……さらに、魅力的になったわね」
彼女の家へ、向かう途中。
電車の中でそう言って彼の頰に触れたら、なぜか勢いよく視線を逸らされた。どうしたのかと思えば、感情をこらえるようにしながら「あのさ」と言う雪深。
「人目、あるじゃん……はずいって」
「あ、ごめん。
わたしこういうの、あんまり抵抗なくて」
ぱっと手を離せば、心なしか彼の顔が赤い気がする。
意外と照れ屋らしい。なのにそう人の多くない電車内で彼が肩に顔をうずめてくるから、周りから見ればやたらベタベタしている恋人にしか見えないだろう。
「あと、人目のあるところで言われても、さ。
ほら……キスとかできないし」
「……それは人目がなくてもだめだと思うわよ」
ハニーブラウンに染まった髪を、優しく撫でる。
やっぱり雪深は、黒髪よりもこっちの方がいい。写真の中の彼は笑顔だったけど、今の方がとてもしあわせそうに見える。
「一ヶ月前は……
まさか自分からあの人に会いに行くなんて、想像もしてなかったよ」