一晩だけあなたを私にください~エリート御曹司と秘密の切愛懐妊~
一日離れているだけで、こんなにも彼を欲している。
彼の電話番号は覚えている。
でも、今かけて彼の声を聞いたら、ここからすぐに逃げ出してしまいそうだ。
私は今まで全てのことから逃げてきた。
だから、今度は逃げてはいけない。
結納は明日。
松本に結婚出来ないと断ったら、怜に電話をして全て打ち明けよう。
スマホをじっと見つめていたら、襖をトントンと叩く音がして兄の声がした。
「ちょっといいか?」
「はい」と返事をして襖を開けると、スーツ姿の兄が立っていた。
「これ、雪乃に」
兄は手に持っていた着物を私に差し出す。
「この着物は?」
たとう紙に包まれた着物を見て戸惑う私。
「雪乃の成人式のために母さんが用意した着物らしい。ばあちゃんが亡くなる前に『雪乃に渡して』って俺に言ったんだ。葬式のゴタゴタやお前の縁談で渡しそびれてた。明日はめでたい日とはいい難いけど、一度くらい袖を通してもいいかと思って」
母は私の成人式の日に亡くなった。
< 183 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop