一晩だけあなたを私にください~エリート御曹司と秘密の切愛懐妊~
「ふたり並んで。私、写真撮るから」
彼女の指示で兄と並ぶが、なんとも照れ臭い。
「ふたりとも表情が固いわよ。もっと笑って」
美久さんの要求に私も兄も苦笑い。
そこを彼女がスマホのカメラで撮ってクスッと笑う。
「さすが兄妹ね。笑顔が一緒だわ」
美久さんの発言を聞いて困惑したように顔を見合わせる私と兄。
笑顔が一緒なんて初めて言われた。
でも、兄と私の反応が被る。
流れている血が一緒なんだって実感する。
「あの……お父さんは?」
タクシーに父が乗っていないのを見て兄に尋ねたら、抑揚のない声で返された。
「先にホテルに行った。先方に挨拶するらしい。もう時間も迫っているから行こう」
兄が軽く私の肩を叩く。
「うん」と返事をすると、兄は声を潜めて言った。
「全部ひとりで背負うなよ。お前ひとりじゃないんだから」
「……ありがと」
兄はまるで私の決意を知っているかのようだ。
兄と美久さんと私はタクシーに乗って結納会場のホテルに向かう。
私が持っている風呂敷包みを見て兄が怪訝そうな顔をする。

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