一晩だけあなたを私にください~エリート御曹司と秘密の切愛懐妊~
涙目でそんなお願いをする彼に、亜希ちゃんはニコニコ顔で告げた。
「いや、本命と思われても困りますもん」
「沢口さん……キツイね」
ハハッと乾いた笑いを浮かべて自席に戻る渡辺くんの後ろ姿がなんだか寂しそうに見えた。
これは結構ダメージ受けたね。
だが、ダメージを与えた本人は全く気にする様子もなく、バックを手に取りにこやかに私に挨拶した。
「それじゃあ、私はお先に失礼します。先輩も早く帰ってくださいね」
「うん。お疲れ」
彼女に手を振り、仕事を続ける。
通常業務を終わらせると、マニュアル作りに励んだ。
まだ部長にしか伝えていないけれど、私はある事情があって来月末で会社を辞める。
だからあと一ヶ月半でマニュアルを完成させなければならない。
私の後任は亜希ちゃんだ。
早く私が退職することを彼女にも伝えないとね。
いい子だけに別れるのが辛くてなかなか言えずにいる。
仕事に没頭していたら、オフィスにはいつの間にか私ひとりしか残っていなかった。
掛け時計に目を向けると、時刻は午後九時十五分。
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